あなたに書いて欲しい物語③
ほっぺたには赤いあざ。目の前にはカンカンに怒った、妹。そして、階下からは家族が喚く声。
何でこんなことになったんだ。ことの発端は今朝に遡る。
ピピ、ピピ、ピ…
あぁよく寝た。さて、水でも飲むか。
そう思って、いつものように布団から起き上がろうとした、その時。
ガン!!
おでこに大きな衝撃があり、頭を星印が旋回する。
イテテテテ…。あれ今どこで頭を打ったんだろう…?
なぜかあたりが全く見えず、目をこらす。
どうやら、狭い場所にいるようだ。
左側から、細い光が入っていたので、そちらの方に手を伸ばす。
ざらざらした布のような感触がある。なんだか横に動きそうだ。
そのままずらすと目に強い光がはいってきた。
まぶしい…そう思いながら改めて、自分の周りを見渡す。
したには布団、すぐ頭上にある天井。そして今開けたところからは畳が見える。
え?僕、もしかして押入れで寝てた?
いつのまに入ったんだろう。
よくわからないまま、押入れの襖を開ける。
眼前に広がる景色に僕は唖然とした。
ここ、のび太の部屋だ。
よくみたあの机、本棚が目の前にあった。
そして今自分は押入れから出てきた。
これってもしかして…そう思って自分の体を見てみる。
腕は青い、そして手はまんまるだ。
そしてお腹には楕円型のあのポケットが!
僕、ドラえもんになっちゃった!!
ウフフフフ。おもわず、笑みが溢れる。
夢に見たあの道具、この道具が使い放題だ。
そうだ、一度使ってみたかった道具があるんだ。
もしもボックス。これでやってみたかったことがあるんだ。
「学校の女の子がみーんな、僕の彼女になった世界に連れてって!」
…
ハッ!!
ピピ、ピピ、ピピ!!
聞き覚えのあるアラームがなっている。
まわりを見渡す。いつもの机。いつもの本棚。
ああなんだ夢だったのか、勿体無いことをしたなぁ。
そうおもってスマホのアラームを止める。
さてもう一眠り、と思ったが、外から大きな音がして目が覚めた。
何だか外が騒がしかった。
仕方なく起きて、窓から外を見る。
そこではたくさんの猫が僕めがけて鳴いていた。
僕は夢の出来事を思い出す。
あぁあの夢ドラえもんになった時に言ったから…それで…猫に好かれちゃったのかぁ。
何だか残念な気持ちになって、窓を開ける。
部屋に数匹の猫が入ってくる。自分の周りに猫の輪ができる。
でもなんだかこういうのも悪くないもんだなぁ。
そうおもってしばらく戯れていると、階下から朝食に呼ぶ声がした。
すぐ行くよとそう言って、猫を外に追いやろうとしたのだけれど、全然離れない。
しばらく猫たちと格闘していると、階下からまた呼ぶ声が。
早くしないと、思って猫を引き剥がすのだけれどなんども向かってくる。
モテる男もたいへんだ。
お兄ちゃん、早くしてよ、学校遅れちゃうよ。
僕が来ないことにしびれを切らしたのか、妹が階段をのぼってきた。
ヤバイ、はやくなんとかしないと。そう思うのだけど、一向になんとかなる気配はない。
僕は、あせって部屋のドアの前に体を寄せる。ひとまずこれで妹は入って来れない…。
そう思った矢先のことだった。
部屋の猫がドアの方に向けて一斉に鳴き始めた。
お兄ちゃん、何この鳴き声?猫でも拾ってきたの?
僕は焦って、こう切り返す。
ああ、ちょっと窓から入ってきててさ。離れてくれないんだよ。だからちょっと待ってて…。
ドアの前の妹に伝える。でも妹はわかってくれそうもない。
お兄ちゃんばっかずるい!私にも触らせてよ!開けて!
妹がドアを全力で押してくる、僕も背中で必死に抑える。
そうこうしていると、1匹の猫が、僕のレゾンデートルの上でダンスを始めた。
2本足で器用に立って、ステップを踏んでいる。
うっふふふ、やめて、くすぐったい、わはは…
思わず、力が緩んだその瞬間、背中で抑えていたドアは大きく開いた。
それと同時に僕の周りにいた猫は一斉に妹に向けて飛びかかった。
わっ!!!
驚いた妹はそのままドミノのように後ろに押し倒された。
猫も、妹の金切り声に驚いたのか一斉に階段をおりて逃げて行く。
部屋の残っていた数匹の猫も愛想をつかしたのか、窓から逃げていった。
僕の魔法もここまでか…。
僕はそう思って目の前を見る。そこには目を真っ赤にして怒った妹の姿が。
パチン!!
僕は妹にほっぺを強く叩かれた。妹に叩かれたのはこれで38回めだ。
ほっぺたには赤いあざ。目の前にはカンカンに怒った、妹。そして、階下からは家族が喚く声。
こんなのってないよ、これも夢だったらいいのに。
そう思って妹に、こう聞いて見た。
僕のほっぺ、つねってみてくれない?
妹は力いっぱいに僕のほおを握りしめて、引っ張った。
イテテテテ!!!やっぱり夢じゃない!……
ハッ!!
ピピ、ピピ、ピピ!!
聞き覚えのあるアラームがなっている。
僕は焦ってまわりを見渡す。僕1人だ。
ああまた夢だったのか、助かった…。
そうおもってスマホのアラームを止める。
起きて窓から外をみると、数匹の猫が戯れていた。
もしかしたらと思って猫に近づいてみる。
僕の期待は外れて、みんな逃げていく。
あーあ。#それすらも夢だった。おわり