あなたに書いて欲しい物語④

#大丈夫?ときかれて我に返る。

顔色が悪いようだけれど。

僕の顔を覗きこんでアヤベが言う。

ああ、うん。大丈夫、ちょっと眠たかっただけ、と僕は答えた。

アヤベは訝しげな顔はしたものの、すぐに手元の携帯に視線を戻した。

アヤベの詮索を免れた僕は手の甲で汗を拭き、また作業に戻る。

アヤベには秘密にしているけど、最近彼女ができたのだ。

ゆうべは「おたのしみ」があったので、僕はとても眠かった。

 

その日は残業が長引いて、夜遅くに帰宅になった。とても疲れていたので、風呂でも寄って帰ろうか、と考えていた。

 

そんな面持ちで帰りの車を運転していると、少し先に明るい看板が見えた。

○×本舗。最近この辺りにできたマッサージ屋だ。

いつもは体が痛くても、自分で揉んだりして我慢するのだけれど、今日は特別痛かった。

たまには人にやってもらおうか…と少し自分を甘やかして店の方へ車を動かす。

ウインカーを出して、お店に入ろうとした。その時だった。

後ろからくるバイクが急に速度を出してきて、僕の車と接触した。

バイクは横転して、歩道側に倒れこむ。

 

僕は焦って、車から降り、バイクに駆け寄った。

なんども声をかけるのだけれど、返事がない。

うつ伏せの状態だったので顔は見えなかったのだけれど女性のようである。

彼女の首筋から血が出ているのがみえて、僕は焦ってヘルメットを外した。

顔色を確認しようとして顔を見る。

その顔を見て僕は顔が引きつった。

かつての僕の同級生の女だった。

 

僕は救急を呼んでいない事に気づいて携帯を出した。

電話をかけようとした時、不意に何かに足を引っ張られた。

ハッとして後ろを見ると、青くてぬめぬめした手が僕の足を掴んでいた。

僕はその手の先を視線で追う。

その手の主をみて唖然とした。

腰が抜けて、尻もちをつく。携帯も手元から滑りおちた。

 

 

 

河童が僕の足を引っ張っていた。

 

は!?どういうことだ?

僕は河童の手を引き剥がして、距離をとる。

やつは無表情で僕の方を見つめている。

 

僕は河童から逃げるように後ろに後ずさる。

そのままなんとか立ち上がって後ろに走り出す。

 

河童に気を取られて気がつかなかったけれど、

あたりの様子がおかしい。

周りは駐車場だったのに、見渡す限り田んぼしかみあたらない。

人も1人も見えなかった。

先の方見ると藁葺き屋根の家が一軒立っている。

走りながら後ろを振り返る。

 

河童は追ってこないようだった。

 

僕は安心して、家の前まで行って座り込んだ。

その家は、とても荒れていて空き家のようだった。

僕はそろそろと家の中に入る。

一見昔の家のようだったけど、中は現代風だった。

僕は部屋を見渡してすぐある事に気がついた。

『僕の写真が壁中に貼ってある…。」

 

学習机が置いてあったので、そこまで歩く。

机には僕が女の子と写っている写真があった。

昔の写真、僕が小学生の頃の。

僕の隣の女の子の顔はよくわからない。

顔が油性マジックで塗りつぶされているからだ。

 

ただ、僕にはこの写真がなにかわかる。

これは卒業式の日に今の彼女と撮った写真だ。

 

机のマットには何やらメモ書きのようなものが挟まっていた。

それにはこう書いてある。

「わたしはあきらめないよ」

 

僕は、不穏な空気を感じて、家から出た。

外に出ると強い光が僕を突き刺した。

僕は目を閉じた。

 

眩しさに慣れて、ゆっくり目を開くと、そこは元の街だった。

目の前にはバイクと倒れている女性。マッサージ屋の駐車場。

僕は、改めて女性に声をかける。

 

「大丈夫ですか。」

ちいさな声で返事があった。僕を悪寒が包み込んだ。

 

「タカハシ君、#私はあきらめないよ。」